第12章 執着の果てに
女の喉はきゅっと詰まり、声を出すことさえ難しくなる。
そのとき。
悟「おい。」
背後から低く鋭い声が響いた。
振り返らずとも分かる。
悟だった。
足音が近づき、白いシルエットが夕暮れの中で際立っていく。
悟「何してんの。放せよ。」
冷たい声色に、空気が一瞬で張り詰める。
元カレは眉をひそめながらも、女の腰を抱く腕を強める。
彼「……別に。ちょっと話してただけだよな?」
そう言って女を見下ろす。
返事を求める眼差しは、穏やかさの裏で冷酷な圧を秘めている。
――言え、一緒にいるって言え。
無言の強要に、女の喉が震える。
助けを求めたいのに、昨夜の脅迫文が脳裏を過ぎって口を塞ぐ。
もし逆らえば、彼は本当に全てを暴露するかもしれない。
甚爾にも、悟にも。
仕事にも。
生活にも。
「……一緒に帰る。」
か細い声で絞り出すと、悟の足が止まった。
彼は驚きではなく、冷えた瞳でじっと女を見つめる。
その目に浮かんだのは失望か、怒りか――
女には判断できなかった。
悟「……そう。」
短く吐き捨てるように言い、悟はそれ以上言葉を続けなかった。