第1章 カンケイ
最寄駅に着き電車を降りる。改札を出て家へ向かうが、ずっと前を歩く勝己とは何も会話できなかった。
『……今日は、ありがと』
カバンから家の鍵を取り出し扉を開けて後ろにいるはずの勝己にやっとお礼を言った。顔は見れない。見たら泣いてしまうから。
「何言ってんだテメェ」
『っえ、?』
顔を見ずに扉を閉めようとしたのだが突然真後ろから勝己の声が聞こえて慌てて振り返ると、ぶつかってしまいそうなくらい近くに立っていた。ここで、やっと目が合う。
「このまま帰れってか、あ゛?」
勝己の力に敵うわけもなく、2人してドアの内側におさまる。玄関で動けずに下を向く。何を言ったら良いのか、何を言っても泣いてしまいそうだった。
「あいつに何された」
『っ……』
頭上から怒りが含まれた声で尋ねられる。怒りを感じるのに、優しさも感じてしまうのはきっと、怖い思いをしたから。我慢していた涙が溢れ出る。嗚咽しないように口に手を押し付け深呼吸をしようとするが、できなかった。
「おい、言え」
顔を掴まれ半ば強引に目線を合わせられる。相変わらず眉間には皺が寄っているがいつものトゲを感じない。
『…お尻とか、触られて……ズッ…尻尾、アイツの、股間に、巻きつけられて……』
大まかな被害を口に出すと自分の情けなさに更に涙が溢れ出る。再び顔を下に向けると勝己に抱きしめられた。
「んであん時言わねぇんだよ。クソ猫が」
『だって、勝己いるなんて…』
「迷子常習犯放ったまま帰るヤツがどこにいんだ!ァア!?」
『だってぇ……』
抱きしめながら頭にゲンコツを喰らわす勝己は果たして優しいのか優しくないのか曖昧なところだった。だけど、抱き締められた体はから先ほどまでの震えは消えていた。
『ありがとう…勝己…』
涙を拭いながら目線を合わせ礼を言うと再び拳骨を喰らう。
「っせぇ!!もう泣くんじゃねぇ!!!ブスが更にブスになんぞブス!!」
悪口を言われてるはずなのに、いつもと変わらない幼馴染の言動に自然と涙が消え笑顔が溢れた。