第1章 カンケイ
目的の駅の手前、大勢の乗客が乗換のために電車を降りた。すると男は私の体から手を離し尻尾が元の位置に戻された。終わった、と胸を撫で下ろそうとした刹那、男にその汚い手で手を握られた。
「降りよう」
『ひぃっ……』
初めて男の顔を見た。汚い。無精髭を生やした小汚い男だと頭の中では想像していたのだが、至って真面目そうな風貌のサラリーマンだった。だがメガネの奥の目は笑っているがその目には理性がうかがえなかった。膨らんだ股間に目が入ってしまう。このまま手を引かれたまま電車を降りたらどこで何をされるかわからない。
恐怖で声は出ず足も動かなくなったその時だった。
「おいジジィ。俺の女に気安く触ってんじゃネェ。殺んぞ」
私の手を掴む男の手をツンツン頭が掴んだ。
『かつ…き…』
安堵で涙が出そうになる。ここで、周りの視線にようやく気がついたのか男は私の手を離し舌打ちしながら電車を降りていった。
程なくして電車が発車する。先ほどまで満員だった車両には今はまばらにしかいない。
「偉そうに1人で帰れるって啖呵切った直後にこれか、アホ猫」
いつも通りの酷い言いように私は何も言い返せなかった。そんな私を見て舌打ちをした勝己は私の手を引いて空いていた座席に半ば強引に私を座らせた。