第7章 ホノオ
かつて、古代エジプトに猫の神様であるバステト神が崇められていた。
バステト神は豊穣、官能、優雅さ、家族の女神とされ、女性の神秘や家庭の幸せを象徴していた。
また、悪霊や病気から人を守る力があると信じられ、猫が一度にたくさんの子を産むことから多産の女神ともされていた。
個性発現直後、古代エジプトの文化が根強く残った国に猫の個性を持った女、カルリアが生まれた。
猫のような耳と尻尾を持った彼女の姿はまさにバステト神であると国中で騒ぎになり、齢15にして国王の元へ嫁ぐことになった。
が、カルリアが国王の元へ嫁いだ直後、国中に感染症が蔓延した。国民の半分以上が病に感染しそのほとんどが命を落とし、終息まで2年の月日を費やした。
病の終息後、病が蔓延したのは、カルリアが嫁いできたことが原因ではないかと騒ぎ立てるものが現れた。喪に服した国民たちの間で、その無理のある言い分は根拠もないまま信憑性を増し、さらには国王までもがカルリアを病の元凶とまで言い始めた。
カルリアは国民の面前で火炙りの刑で処せる運びとなった。
カルリアは炎を何よりも恐れていた。そのことを知っていた国王は、彼女が最も苦しむ方法で、彼女を殺そうとしていた。
だが、炎に囲まれ強い恐怖心に襲われたカルリアは突如として暴れ始めた。当時17歳。華奢な体格であったにも関わらず、身を拘束していた鎖をちぎり、炎の中から飛び出した。
彼女の顔は正気ではなかったという。目は赤黒く光り、口から見える牙や四肢から生えた爪は一撃で人の首を掻き切るほど鋭く、力も強かった。
その姿はまるで可愛らしい猫などではなく、ライオン、トラ、ジャガー、ヒョウ、チーター。猫科の猛獣たちを彷彿とさせる凶暴性だったという。
まるで様子の変わったカルリアは自身を狙う兵士たちを1人残らず殺し、その国から去っていった。