第6章 マタタビ
「それで、俺に話ってなんだったんだ」
電車に乗って最寄駅で降りるまで、私たちの間には最低限の会話しかなかった。改札を出て家に向かいながら轟くんが突然口を開いた。
『え、?あ、そっか、そうだ。轟くんのこと探してたんだ』
流石に起こったことが濃厚すぎて忘れてしまっていた。本題だ。
カバンからずらっとヒーロー事務所の名前が並んでる書類を取り出した。
『これ、スカウト来た事務所の中に』
五十音順に並んだ事務所の中から比較的上の方に彼のよく知る事務所の名前が。
「っエンデヴァー?」
『うん。こんなこと轟くんに聞いてもしょうがないのかもだけど、まさか、私のとこに来るなんてさ。なんでかなって。何にも聞いてないよね、?』
「…あぁ…知らねぇな」
『…そう、だよね。ごめん、ありがとう』
「行くのか、エンデヴァー事務所」
『まだ、迷ってるかな。轟くんは?』
「俺は、」
轟くんの口がゆっくりと動いた。なんて言ったのか分からなかった。
なぜなら目の前にヤツがいたから。
「テメェら何仲良しこよしで歩いてきやがった!!あぁ!?」
「…俺たち、仲良しこよしってほどでもないぞ」
「そういう問題じゃねぇクソが!」
『で、何?用?』
「んなもんあるかクソ猫!」
好きなだけ喚いて家の中へ帰って行った勝己。いや、ほんとになんだったんだアイツは。…まぁどうせむしゃくしゃするからヤらせろとか、そんなんだろうな。
「仲、良いんだな」
『良く見えた?』
「あぁ。なんとなくだが」
『そっか…じゃあ、家ここだから』
「ここか?爆豪と隣なのか」
『うん。おかげで生まれた時からの腐れ縁で』
「幼馴染ってやつか」
『あーまぁ、そんな感じかな』
幼馴染というか、今は人様に言えないような関係性になっている、けど。
「じゃあ、また明日」
『うん。わざわざ送ってもらってありがとう。また明日』
踵を返して今きた道を戻る轟くんの背中を見て、今度お礼に何か送ろうと決めて家へ帰った。