第6章 マタタビ
「気をつけて帰れよ」
『はい。ありがとうございました』
私と相澤先生はせっせと服装を整えて、仮眠室から出た。何事もなかったように、まるでただの相談終わりのような空気感でお互い反対方向へ歩いた。
私は荷物がまだ保健室のはずだから、そっちへ向かった。
正直、まだ疼いている。でも熱は下がったし倦怠感もだいぶマシだ。リカバリーガール曰く1週間ほどは刺激に敏感になるかもしれないが、それほど普段の生活に支障は来さないだろうという見解だ。
勝己にこのことがバレたら大変だろうなぁなんて思いながら階段を登ると、見覚えのある紅白頭が目に入った。
『轟くん、?』
「ん、あぁ渡橋か。体調は」
『うん。だいぶマシ。ありがとう。待っててくれたの?』
「あぁ」
そう言いつつ私のカバンを渡してくれる。紳士だなぁ…と感心していると顔を覗かれた。
『っ!?』
「汗、かいてるぞ」
『あ、あぁ…さっきまで熱酷かったから、もう大丈夫だけどね』
「そうか」
なんともいえない空気が流れる。さっきまで先生とあんなことをしていた手前、平常心でいることが難しい。
「家まで送る」
『えっ、いや、大丈夫だよ。もう、平熱だし、』
「顔、赤いぞ」
『あぁー…ちょっと、疲れちゃって』
「…?リカバリーガールが相澤先生の個性で猫の個性を消して治療してもらうって言ってたが、そんなに疲れるのか?」
『……うん。まぁ…』
なんとか誤魔化さねばと頭をフル回転させても、良い言い訳が思い浮かばない。斜め上を見て頭を掻いていると手に持っていたカバンが再び轟くんの手の中へ
「帰るぞ」
『え、あ、ちょ、待って!』
私のカバンを持って階段を降り始めた轟くんの背中を追いかけ、結局家まで送ってもらうことになった。