第2章 カラダ
「あの、渡橋さん、変なことに巻き込んじゃって…ごめんね」
『いやいや、私が盗み聞きしちゃったのが悪い、こっちこそごめんね』
2人で教室に向かう道中、僕は胸の高鳴りが抑えきれていない。
僕の初恋は渡橋さんだ。家が近くて小さい頃から遊んでいたかっちゃんの横にずっといた。
笑顔が可愛くて優しくて、僕が転んだりして怪我をするといつも心配して手当てをしてくれた。僕が無個性なことに落ち込んで、周りのみんなに笑われてた時だって、彼女だけ笑わないでいてくれた。
唯一僕に分け隔てなく話しかけてくれて、それだけで十分すぎるくらい救われた。
中学に入ると、かっちゃんの絡みから庇ってくれるようになった。
そこで僕は諦めたんだ。僕は、彼女に助けられてばっかりだった。
彼女の隣に似合うのは、きっと、かっちゃんみたいな強くて人の先頭に立てるような人だって、気づいたんだ。
僕は、渡橋さんの隣に立つのにはふさわしくないんだって。
『ごめんね、出久』
「えっ?」
階段を登る途中で、突然彼女が足を止め謝りだした。ぼ、僕、何かしたかな…?!
『今まで、ずっと、出久のこと、守れなくて、っ』
大きな目から大粒の涙が溢れ出した。ポロポロと流れる涙を見るだけで、あわあわしているだけで、なんて言葉を返したらいいかわからない。
『辛かったよね、個性ないの、みんなに揶揄われて、っ、私、止められなくてっ、ごめんっ、出久のこと、大事な、友達なのにっ、守れなかった、っ』
「そ、そんなっ!僕は、十分すぎるくらい渡橋さんに救われてきたよ…!?
こんな僕にずっと、いつでも優しく話しかけてくれて!十分すぎるよ!」
『私、出久のことっ守るからっ!絶対、今度こそっ出久のこと守るからっ』
だからっ
『もうっ勝己とあんな喧嘩しないでっ!!』
いつも、渡橋さんはかっちゃんの隣にいた。きっと、これからもそうなんだと思う。
僕のことを1人の友人として見てくれる渡橋さんには、僕らがこんな大怪我をするような戦いを見ることは、相当辛いことだったんだと、彼女の大粒の涙を見て初めて実感した。