第9章 『 小さな葛藤 』
「……陸奥守さん」
闇が蠢く中、審神者は名を呼んだ。
操られ縛られ、それでも――まだここにいる刀。
「大丈夫」
震えそうになる声を必死に抑える。
「触れるよ」
肥前が、息を呑む。
「あんた……!」
止める間もなかった。
私は一歩陸奥守さんの前へ出る。
糸がぎしりと鳴る。
前任の怨念が嘲るように笑う。
「触れたら、一緒に壊れるわよ」
――それでも。
審神者は、陸奥守の手を、そっと包んだ。
瞬間。
――――――世界が反転した。
闇が爆発するように広がり審神者と陸奥守を、まとめて呑み込む。
「……っ!!」
息ができない。
体が、引きずり込まれる。
視界が、黒に染まる。
「おい、主!!!」
肥前の叫びが遠くなる。
前任の声が耳元で囁いた。
「一緒に、沈みましょう?」
(……だめ)
私は、必死に陸奥守さんの手を離さないように握りしめた。
(離したら、この刀は――)
その時。
――ガァンッ!!
空間が、斬り裂かれた。
結界が砕け散る音が鳴る。
「……ははっ」
聞き覚えのある軽い声。
「こりゃあ、悪趣味な舞台だな」
白い装束が、闇の中に飛び込んでくる。
「――鶴丸……!」
審神者の視界に、一瞬だけ彼の姿が映る。
その次の瞬間。
「主が呑まれてるだと?」
低く凍るような声。
闇を踏み砕くようにもう一振が現れた。
三日月宗近。
「……見過ごせるはずがなかろう」