第9章 『 小さな葛藤 』
「ほら」
女の姿をした影が、どこからともなく響く。
「あなたが救ったつもりの刀たちも、この本丸に繋がれている」
「……違う」
私は、震える声を押し殺しながら前へ出た。
「この本丸は、もうあなたのものじゃない」
黒い霊力が、私の足元へと伸びる。
だが――触れた瞬間それは、弾かれた。
淡い光が主の周囲に円を描く。
「……なによ、これ」
前任の声が、初めて揺らぐ。
審神者の霊力は“拒絶”していた。
本丸を侵す怨念を、静かに、しかし確実に。
「私は、この本丸を立て直すって決めたんです」
声は小さい。
けれど、芯がある。
「刀たちを、彼らを、もう誰にも縛らせない」
その言葉に反応するように。
――本丸全体が低く、唸った。
柱が軋み天井が震え、空間が二つの霊力で引き裂かれる。
前任の怨念。
審神者の守る力。
本丸は今どちらを“主”と認めるか、選ばされているかのようだ。
陸奥守さんの指が、わずかに動いた。
「……肥前…の…」
微かな声。
それを聞いた瞬間、肥前くんは迷いなく叫んだ。
「俺は、あんたを信じるぜ!!」
その言葉が、決定打になった。
――次の瞬間。
本丸の奥深くから何かが“弾ける”音がした。
前任の怨念が悲鳴のように軋む。
「……そんな、裏切り……」
影が歪み始める。
だが完全には消えない。
まだ本丸のどこかに根を張っている。
「……逃がさない」
私は陸奥守さんへ向かって確かに一歩、踏み出した。
ここからが――本当の救出戦を行う為に。