第8章 『 距離 』
その夜。
大広間。
主と鶴丸以外が、揃っていた。
「……で」
豊前が、腕を組む。
「あの二人、どう思う?」
「思いのほかじれったい……」
三日月が、即答した。
「主は不安そうだが、鶴丸は逃げ腰ときた」
「典型的だな」
「刀が恋をするなんて…とでも思っているのでしょう」
一期一振が、静かに口を開いた。
「感情は、否定すべきものではありません」
「だが強く押すものでもない」
鶯丸が口を挟み、茶を啜る。
「自然に、逃げ場を無くすのが良い」
「……それ、自然か?」
豊前が突っ込む。
「例えば」
鶯丸は淡々と続ける。
「二人きりになる機会を、“偶然”作る」
「夜番」
「遠征準備」
「見回り」
「……罠じゃねぇか」
「罠ではない。環境調整だ」
三日月は、愉快そうに笑った。
「では、驚かせ役には驚かせ返す、としようか」
「俺は関与しないぞ」
楽しそうに口にした三日月の言葉に長谷部が、きっぱりと釘を刺す。
「主は主だ。だが」
一拍置いてから。
「主が、不安になるのは本意ではない」
誰も、その言葉に反論しなかった。
廊下の向こう。
鶴丸は、自分が話題に上っているとも知らず、頭を抱えていた。
(距離を取るって……こんなに難しかったか?)
主の顔が、頭から離れない。
逃げるほど、近づいてしまう。
それが、何よりの失敗だった。