第8章 『 距離 』
鶴丸国永は、決めていた。
(……距離を置こう)
主にとって、俺は刀だ。
守るべき主に、余計な感情を向けるのは違う。
だから。
「……あ」
廊下で主を見かけた瞬間、反射的に方向を変えた。
「あ、鶴丸さん」
呼ばれて、肩が跳ねる。
「……あー、主」
振り返った瞬間、いつもの軽口が出ない。
「お、どーした。何か用?」
(距離、距離だ)
「姿を見かけたので挨拶をと……」
言い切るが、声が少し裏返ってしまう。
「ありがとうございます、今日も内番よろしくお願いしますね」
無意識なのだろう。
主は、少しだけ首を傾げこちらを見る。
その仕草が、無性に胸に……。
(くそ……)
距離を取るはずが、視線だけは追ってしまうのはなんなんだ!
鶴丸の中でわからないことがまたひとつ増えた。
その日の夕方。
主が書類を抱えて歩いていると、足を滑らせる姿を目撃した。
「……っ」
自分自身ではなく書類を守ろうとした姿に居てもたっても居られなくなり気がつけば廊下を走っていた。
「危ない!」
考えるより先に、俺が腕を伸ばしていた。
がしっと、抱き留める。
「……セーフ」
軽口を叩くが俺と主の距離はゼロ。
主の体温。
呼吸。
僅かに香る匂い。
「……ご、ごめんなさい」
「いや、俺が悪い」
慌てて離れる。
(今のは……アウトだ)
主も、どこか落ち着かない様子で、視線を逸らした。
「……鶴丸さん、最近」
「……?」
「ちょっと、変じゃない……ですか……」
胸が、跳ねた。
「き、気のせいだろ!」
即答して答えても感じなところで声が裏返る。
(下手か!俺!)
そんな俺の行動により不安そうにする主。
俺は何も無いを一点張りにその場をあとにした。