第2章 『 後任審神者 』
高身長の男――近侍だという刀剣男士は、静かに門をくぐり、本丸の奥へと歩き出した。
私はその背を追い、屋敷の中へ入る。
廊下を進むにつれて、先ほどまで聞こえていた賑やかな声が、嘘のように途切れた。
代わりに感じるのは、視線。
どこからともなく突き刺さる、無数の気配。
好奇心というより、値踏み――あるいは警戒。
(……胃が、痛い)
思わず奥歯を噛みしめる。
足取りが重くなる私を気遣う様子もなく、近侍は淡々と歩を進めた。
やがて、大広間の前で立ち止まる。
「こちらです」
そう告げると、彼は一歩前に出て、襖に手をかけた。
「――新しい審神者が来られた」
静かな声とともに、襖が開かれる。
その瞬間。
(……うわ)
思わず、心の中で声が漏れた。
大広間に居並ぶ刀剣男士たち。
その全員が、明らかにただならぬ空気を纏っている。
殺気、という言葉が一番しっくり来た。
刃を抜いていないはずなのに、肌がひりつく感覚がある。
「どうぞ、こちらへ」
促されるまま、部屋の中へ足を踏み入れる。
案内された席には、丁寧に座布団が敷かれていた。
……けれど。
私はそれを手に取り、そっと政府の人の方へ滑らせた。
「こちら、どうぞ」
「……?」
一瞬、きょとんとした顔をされたが、何も言われなかった。
私は畳に直接、正座する。
そのとき。
「……主」
すぐ隣から、力の抜けたような声が聞こえた気がした。
気のせい、ということにしておく。今はそれどころではない。
顔を上げると、斜め前に、あの高身長の近侍が座っているのが見えた。
それだけで、ほんの少しだけ、胸の奥が落ち着く。
政府の人が、私が座ったのを確認してから口を開いた。
「前任審神者様からの直接の引き継ぎはございませんが、本丸の存続のため、引き継ぎに応じてくださいました。こちらが、新しい審神者様です」
無数の視線が、一斉に私へ向く。
……怖い。
けれど、逃げるわけにもいかない。
「……本日より、お世話になります」
背筋を伸ばし、声が震えないよう意識して言葉を選ぶ。
「不束者ではございますが、これからは、どうぞよろしくお願いいたします」
深く――とまではいかないが、丁寧に頭を下げた。