第7章 『 ここから 』
二日後。
本丸に起きていた“サイズの異常”は、まるで最初から無かったかのように収まった。
審神者自身も、霊力の流れを意識的に絞れるようになり、無意識に溢れることはなくなった。
「……寂しいがようやく落ち着いたな」
縁側で、鶴丸国永が月を見上げながら呟く。
騒がしかった数日が嘘のように、本丸は穏やかだった。
それなのに。
(……妙だ)
鶴丸は、ふと気づいてしまった。
主は、皆に囲まれている。
笑っている。
頼られている。
それでも――どこか、他人行儀な所があると。
夜になると特に顕著だった。
誰もいない廊下を歩く足音。
部屋に灯る、遅い時間の明かり。
(……眠れてないのか)
確信したのは、その夜。
廊下の角で、思いきり鉢合わせた。
「……あ」
主が、驚いたように目を瞬かせる。
「鶴丸さん……?」
「おっと、これは失礼」
軽く手を上げて笑うが、目は冴えきっている。
「こんな時間に、どうした?」
「……眠れなくて、気分を変えようかなと」
正直な声。
鶴丸は、少しだけ黙った。
(やっぱりな)
「ちょっと待ってな」
そう言い残して、台所へ向かう。
戻ってきた手には、湯気の立つ湯呑み。
「はい」
「ホットミルク」
「……え?」
「驚かせない配慮だ」
くすっと笑って、縁側に腰を下ろす。
「夜更かしには、これが一番効く」
主は、少し迷ってから受け取った。
「……ありがとう」