第7章 『 ここから 』
一口飲んで、肩の力が、ほんの少し抜ける。
二人並んで、何も言わずに月を見る。
沈黙は、不思議と重くなかった。
「主」
「うん?」
「無理して、皆と打ち解けようとしてないか?」
その問いに、主の指が、湯呑みを握りしめた。
「……少しだけ」
「嫌われたくないとか?」
「……嫌われると言うより、心配させたくなくて」
鶴丸は、目を伏せた。
(ああ……)
「主はな」
ゆっくり言う。
「驚くほど、一人で抱え込む。それ、見てる側は結構きつい」
主は、小さく笑った。
「……鶴丸さんらしくない言い方ですね」
「たまには真面目になるさ。驚きばかりじゃ、誰も気づかないだろ?」
主は、黙って頷いた。
その沈黙が、どこか居心地よくて。
気づけば、互いの距離が、少し近い。
(……)
「……眠れそう?」
「……うん、たぶん」
「なら、ここにいよう。寝るまで」
主は、驚いたように鶴丸を見た。
「……いいんですか?」
「当然だろ。驚かせ役は、見張りも兼ねてる」
軽口の裏で、本気だった。
主は、小さく息を吐いて笑った。
「じゃあお言葉に甘えて、少しだけ」
月明かりの下。
二人は並んで座り続けた。
触れない距離。
でも、確かに近い距離。
(……ああ)
鶴丸は、胸の奥が、静かにざわつくのを感じていた。
主が、“守る存在”から“意識してしまう存在”に変わった瞬間。
それは、
驚きよりも、ずっと厄介であり。
悪くない予感だった。