第6章 『 誓い 』
そして。
彼は、私の名を呼んだ。
「――知世」
とたった一言。
胸が、跳ねる。
まだ長谷部さん以外に名乗っていなかったはずの自分の名。
何故か三日月さんの口から出てきて事に驚いたのと同じぐらい誰かに、名を呼ばれたのは――初めてだった私は嬉しさのあまり目頭が熱くなるのを感じた。
「……はい」
声が、震える。
「聞け、知世」
三日月の声は、低く、静かだ。
「これは、奇跡ではない。選ばれた、などという都合のよい話でもない」
「……はい」
「ただ、そなたが、ここに“在る”からだ」
月明かりが、彼の背を縁取る。
「刀は、主の背を選ぶ」
「逃げぬ背を、な」
遠くで、折れた刀の部屋が、静かに鳴った。
それは――
応える音だった。
「……三日月さん」
「うむ」
「……えっとですね……」
私が名を呼んだことによって胸を抑えると三日月は、少しだけ目を細めた。
「まだ、完全には信じておらぬぞ」
そう言って、くるりと背を向ける。
「だが」
「名を呼ぶくらいは、許してやろう」
まだお昼だと言うのに太陽の近くには月が高く昇っていた。
完全な引き継ぎまで――残り、二週間。
本丸は、確かに、動き出していた。