第5章 『 私の力 』
最初の異変は、音だった。
風が、止んだ。
次に。
訓練場を囲う結界が、“張られていないのに”安定し始める。
「……おいおい」
鶴丸の声が、低くなる。
「霊力数値……上がってない」
「なのに……場が、落ち着いてる?」
私は、何もしていない。
ただ、ここに、いる。
その時。
近くに置かれていた、刀架の刀が、小さく、鳴った。
――カン。
「……?」
鶴丸が、目を見開く。
「今の……」
刀身が、“主張するように”微かに揺れた。
「……刀が」
鶴丸は、息を呑む。
「主を、探してる」
私は、目を開けなかった。
怖かった。
ここで、意識したら、また、壊れる気がして。
数分。
長い沈黙。
やがて。
鶴丸が、ゆっくりと息を吐いた。
「……驚いた」
声が、真剣だ。
「何もしないことで、ここまで安定する主、初めて見た」
私は、目を開けた。
訓練場は、静かだった。
張り詰めていない。
けれど、乱れてもいない。
「……成功、ですか?」
「成功だな」
鶴丸は、はっきり言った。
「少なくとも、“異常事態”なのは確かだ」
にやりと笑う。
「三日月が見たら、さぞ面白い顔をする」
その瞬間。
訓練場の外。
柱の影に、月の気配が、確かに、あった。