第5章 『 私の力 』
翌日。
訓練場の端で、腕を組んで立っているのは――長谷部さんではなかった。
「よし」
軽い声。
「今日は俺が見張り役だ」
鶴丸国永。
「……長谷部さんは?」
「政府対応で離れてる」
肩をすくめる。
「だから今日は、“口出ししない役”を俺がやる」
……それ、信用していいのかな。
「で?」
鶴丸が、首を傾げる。
「今日は何をする?」
私は、一度だけ深呼吸して言った。
「……何もしません」
間を開けて鶴丸は、きょとんと固まる。
「……は?」
「座るだけです。霊力、出しません。それに、操りません」
「……それ訓練?」
「らしいです」
少し、困ったように笑う。
「三日月式、だそうで」
数秒。
沈黙。
次の瞬間。
「……ははっ!」
鶴丸が、声を上げて笑った。
「なるほどな!そりゃあ、政府が見たら卒倒するぞ」
私は、訓練場の中央に座った。
正座。
背筋を伸ばす。
目を閉じる。
(……何もしない)
(出さない)
(感じない)
――いや。
“感じる”は、違う。
ただ、流れていくものを、止めない。
鶴丸は、少し離れた場所で、黙って見ていた。