第5章 『 私の力 』
「政府より、非公式通達です」
いつもより、声が低い。
「霊力数値の推移次第では――
引き継ぎ期限を、“前倒し”する可能性があります」
胸が、きり、と痛んだ。
(あー……)
(来たな……)
私は、反射的に笑っていた。
「……えへへ、胃が痛くなってきました」
いつもの癖。
空気を、軽くするための笑い。
「短縮って……それ、冗談じゃないですよね」
こんのすけは、表情を変えない。
「政府は、結果を求めます」
「過程は――評価対象外です」
胃が、本気で痛い。
それでも。
「……わかりました」
笑顔のまま、答えた。
「やれるだけ、やりますよ」
こんのすけが、消え去る。
その瞬間。
笑いが、消えた。
一人になると、足が、わずかに震えだす。
「……怖いな」
ぽつり。
でも。
「……大丈夫、怖くない。逃げないよ」
自分に、言い聞かせる。
回廊の向こう。
柱の影で、三日月宗近が、静かに息を吐いた。
「……胃が痛い、か」
小さく、笑う。
「それでも、逃げぬとは……」
月を仰ぐ。
「さて」
「そろそろ、こちらも動かねばなるまいな」
その夜。
主は知らない。
孤独だと思っていた背中を、
すでに、いくつもの視線が、守っていることを。