第5章 『 私の力 』
その頃。
主の部屋。
私は、布団の上に座ったまま、視界がぐらりと傾くのを感じていた。
(……あれ)
息が、浅い。
胸の奥が、ずしりと重い。
「……長谷部……さ、ん?」
呼んだ声は、思ったより小さくて。
次の瞬間。
身体が、前に倒れた。
畳に触れる前に、誰かの腕が、私を受け止める。
「――主!!」
長谷部の声。
その遠くで、
ざわ、と本丸が鳴る。
「霊力が……下がっている?」
「いや、違う……“消耗”している……!」
意識が、薄れていく。
(……そうか)
(これが……代償)
守る力は、自分を削る。
簡単な、理屈。
最後に聞こえたのは――
「すぐ、休ませろ!」
鶴丸の声と、誰かが走る足音だけが聞こえた気がした。
その翌朝。
目を覚ますと身体は重く頭が、鈍く痛んだ。
だが。
「……生きてる」
その一言で、部屋の空気が、少し緩んだ。
長谷部が、深く息を吐く。
「無茶は、お控えください」
声は低く、怒りと安堵が混じっている。
その時。
こんのすけが、音もなく現れた。
「正式な通達です」
淡々と。
「完全な引き継ぎ完了まで――残り、二週間と五日」
空気が、凍る。
「期限内に、主と本丸の霊的同調が完了しない場合」
言葉は、冷酷だ。
「この本丸は、“継承失敗”と判断されます」
沈黙。
私は、布団の上で、ゆっくりと拳を握った。
「……なら」
声は、震えていなかった。
「間に合わせます」
守る。
折らせない。
戻す。
代償があっても。
部屋の外。
回廊の影で、三日月が、静かに目を閉じた。
「……さて」
微笑みが、ほんの僅かに変わる。
「試されるのは……主だけではない、か」
月は、静かに、時を刻んでいた。