第5章 『 私の力 』
刀身の光が、ふっと揺らいだ。
次の瞬間。
「……おや」
かすれた声。
確かに――確かに、聞こえた。
「……ここは……」
息が止まる。
「鶯丸……?」
名を呼ぶと、刃文の奥で、意識がこちらを向いた気配がした。
「……茶は……」
微かに、だけどそれだけが聞こえた。
それだけ。
次の瞬間には、光はすっと静まり、刀は再び眠りに落ちた。
けれど。
「……今の……」
大包平が、震える声で呟く。
「聞こえた……確かに……」
私は、深く息を吸った。
「……一瞬だけ、戻ってきました」
「……っ」
大包平は、言葉を失い、ただ、刀を見つめ続けていた。
その光景を。
少し離れた回廊の影から、三日月宗近が遠くから見ていた。
月を背に、目を細めて。
「……なるほど」
小さく、誰にも届かぬ声。
「“守る霊力”……か」
だが、彼は近づかない。
肯定もしない。
否定もしない。
ただ、静かに背を向ける。
その背中は、どこか重たかった。
三条派のことを、思い出していたのかもしれない。
そして。
「……なあ」
沈黙を破ったのは、鶴丸国永だった。
「これは……偶然じゃない」
軽い口調だが、目は真剣だった。
「主が触れなくても、呼びかけただけで、意識が戻った」
「つまり――」
一歩、前に出る。
「折れた刀“全部”が、同じとは限らないが」
「戻る余地が、ゼロじゃないってことだ」
私は、鶴丸を見る。
「……できると、思いますか」
「思うさ」
即答だった。
「時間はかかるだろうけどな」
肩をすくめて。
「順番も、相性も、多分、ある」
「けど」
鶯丸の刀を見る。
「今日、“不可能”は消えた」
大包平が、静かに頷いた。
「……俺が、支える」
低く、固い声。
「鶯丸も、他の折れた刀も」
「この本丸で、もう二度と……」
言葉が、詰まる。
私は、そっと答えた。
「一振ずつ、一緒にやりましょう」
「急ぎません」
「置いていきません」
その瞬間。
本丸の奥で、結界が、わずかに鳴った。
それは――
まだ眠る刀たちが、“聞いていた”証だった。