第5章 『 私の力 』
刀剣男士たちの空気が、変わる。
期待。
戸惑い。
救われるかもしれないという、かすかな希望。
「……なら」
大包平が、拳を握る。
「鶯丸も――」
「“可能性”はある」
山鳥毛は、感情を挟まず答えた。
その瞬間。
空気の端に、ひとつだけ、異質な気配があった。
縁側近く。
柱に背を預け、月を背負うように立つ一振。
三日月宗近。
その目は、笑っている。
けれど――
誰よりも、遠かった。
「……ふむ」
独り言のように、呟く。
「守る霊力、とな」
誰とも視線を合わせない。
「それはそれは……人にとっては、都合のよい話だ」
胸が、わずかに締め付けられる。
「信じておらぬ、のですか」
気づけば、そう口にしていた。
三日月は、ゆっくりとこちらを見る。
その瞳は、夜そのもの。
「信じぬ、とは言わぬさ」
「だがな」
柔らかく、しかし鋭く。
「千年を越えて見てきたが、“守る”と口にする者ほど、刀を折る」
場が、静まり返る。
「力があることと、最後まで貫けることは、別だ」
一歩、距離を取ったまま。
「俺は、まだ――貴方を“主”とは呼ばぬ」
責める口調ではない。
拒絶でもない。
ただ、事実として。
「……それでいいです」
私は、静かに答えた。
「信じてください、なんて言いません」
三日月の眉が、わずかに動く。
「でも」
私は、拳を握る。
「この本丸で、もう刀を折らせない」
「その結果だけは――必ず、見せます」
しばしの沈黙。
やがて。
「はは」
三日月が、小さく笑った。
「……面白い女だ」
そう言って、月の位置へと戻っていく。
まだ、遠い。
けれど――
確かに、視線は、こちらを見ていた。