第5章 『 私の力 』
「……?」
山鳥毛が、ぴたりと動きを止める。
「結界数値、上昇?」
後方の査察刀が、小さく声を上げた。
「霊力反応が……広がっている?」
私には、自覚がなかった。
ただ、胸の奥が、じんわりと温かい。
(……長谷部)
(……鶴丸)
(……豊前)
誰かを思い浮かべただけで、それが、波紋のように広がっていく感覚。
「……馬鹿な」
山鳥毛の声に、初めて揺れが混じる。
「これは、“干渉型霊力”だ」
「しかも……」
査察刀の一振が、震えた声で続ける。
「本丸全体に、均等に、穏やかに……」
「抑制が、かかっていない……?」
表情が読み取りにくいが驚いている様子の山鳥毛さん。
そんな山鳥毛さんの目の前で私は立っているだけ。
何もしていない。
動かず立っている、ずっとここに。
「……想定値、超過」
山鳥毛が、私を見る。
今度は、値踏みではない。
「新任審神者」
低く、告げられる。
「貴方の霊力は――政府想定を、明確に超えている」
一瞬、静寂。
「……それは」
私の声は、静かだった。
「この本丸を、立て直せる力だと……思っていいんですか」
山鳥毛は、答えなかった。
だが。
「……判断は、保留する」
それが、最大限の譲歩だった。
刀剣男士たちが、私を見る。
その視線は、もう――
昨夜の殺気ではなかった。
査察部隊が去った後も、大広間には重たい余韻が残っていた。
「……結論として」
山鳥毛が、淡々と告げる。
「この本丸の審神者は――
“刀を守る霊力”を持つ、異例の存在だ」
ざわり、と声が走る。
「通常、霊力は“使われる”ものだ」
「命じ、動かし、戦わせるための力」
「だが、貴方の霊力は違う」
視線が、私を貫く。
「刀剣男士の存在を安定させ、損耗を抑え、“折れる未来そのもの”を遠ざける性質を持つ」
言葉が、胸に落ちてくる。
「……守る、力」
「前例は、ほぼ無い」
その一言で、十分だった。