第5章 『 私の力 』
次の瞬間。
「――は?」
低く、荒い声が聞こえた。
中央に座っていた方だ。
「奴は大包平と言い、鶯丸と同じ古備前派の刀です。」
大包平という方は荒々しくドカドカ前に出てくると、大きな声を出して私に言った。
「……今、何と言った」
彼は、また繰り返し名を呼んだ。
「鶯丸?」
呼吸が、乱れている。
「冗談だろう」
視線が、私に突き刺さる。
「……あいつが」
言葉が、続かない。
「……折れた?」
膝が、わずかに震える。
「ふざけるな」
声が、次第に荒くなる。
「鶯丸が、そんな――あいつが、黙って折れるような刀か!」
誰も、止めない。
止められない。
「主」
大包平は、更に私の前へ歩み出る。
「それは、本当なのか」
問い。
願い。
否定してほしい、という叫び。
私は、逃げなかった。
「本当です」
大包平の目が、大きく見開かれる。
「……っ」
喉から、声にならない音が漏れた。
「……あいつは」
拳を、強く握る。
「俺よりも、ずっと……」
言葉が、崩れる。
その場に、膝をついた。
畳に、拳が落ちる。
「……間に合わなかったのか」
誰に向けた言葉か、わからない。
「……俺は、ここにいたのに」
大広間に、沈黙が落ちた。
私もほんの前へ身体を彼に近ずけた。
「……大包平さん」
名を呼ぶ。
「あなたが悪いわけじゃありません」
「そんなことは、わかっている!」
叫びに近い声。
「だが……!」
言葉が、詰まる。
「……だが」
声が、掠れる。
「……鶯丸は、戻らない」
それが、現実だった。
私は、頭を下げた。
深く。
「……すみません」
誰かが、息を呑む。
「でも」
顔を上げる。
「私は、この事実を“なかったこと”にしたくありません」
視線を、全員へと向けた。
「この本丸は、壊れました」
「だから」
「ここから、やり直します」
大包平は、顔を上げなかった。
ただ、拳を握りしめたまま、震えていた。
その背中を、誰も責めることはできなかった。