第8章 『 距離 』
そんな日々の中。
――コン、コン!
突然部屋の襖が強く鳴る。
「どうかしましたか??」
荒い息と共に、駆け込んできたのは――土佐組の脇差、肥前忠広だった。
「肥前くん?!ど、どうしたの?!」
筆を置き、立ち上がるとすぐに彼へ駆け寄った。
ふらふらしている様子。
肥前くんは唇を噛み、拳を握りしめた。
「陸奥守を……陸奥守吉行を、助けてほしい」
声が、震えていた。
「あいつ……様子が、おかしんだ」
その言葉に、審神者の背筋が、ひやりと冷えた。
(……それってもしかして)
霊力の異常か。
それとも――
前任の負の遺産が、まだどこかに残っているのかもしれないと。
「部屋に居ない……と?」
「……部屋というより」
肥前くんの頬から一筋の汗が伝い落ちる。
異常事態が起きていることは彼を見てすぐにわかった。
それでも陸奥守さんに何か起きていた事に主である自分は何も気がつけなかった自分に悔しさが湧き上がる。
「彼の元へ案内してください」
迷いはなかった。
主は袖を整え、肥前の横に並ぶ。
「肥前くん、行きましょう!」
胸の奥に仕舞った想いを、今は振り返らない。
審神者として、行くべき場所がある。
廊下を駆ける足音が、静かな本丸に響いた。
――その先で、
再び試されることになるとも知らずに。