第4章 『 主として 』
本丸のざわめきは、やがてこの建物の近くまで届いていた。
廊下の向こう。
気配だけで、刀剣男士たちが集まり始めているのがわかる。
「……主」
長谷部が、低く声をかける。
「皆、今の霊力に気づいています。いずれ……理由を、知りたがるでしょう」
私は、奥の間――
折れた刀たちのある方向を見た。
「……」
伝えるべきか。
伝えないべきか。
知らなければ、傷つかずに済む。
でも。
「……隠したまま、立て直すことはできますか」
長谷部は、首を横に振った。
「いずれ、歪みます」
その答えで、覚悟が決まった。
「……話します」
ゆっくりと言う。
「全部じゃなくてもいい。でも、“なかったこと”にはしません」
その瞬間。
「――だろうな」
軽い声が、間に入った。
鶴丸だった。
「主は、そういう顔してる」
立ち上がると、ふらりと奥の間へ歩く。
「……鶴丸?」
「一つだけ」
背中越しに、言葉が落ちる。
「名前、出していいか?」
胸が、強く鳴る。
(……名前)
「……それは」
言い淀む私に、鶴丸は振り返らずに続けた。
「折れた刀の中にさ」
少しだけ、声が低くなる。
「鶯丸がいる」
空気が、凍る。
「……え?」
思わず、声が漏れた。
長谷部が、目を伏せる。
「前任が、“戦力として使えない”と判断した一振だ」
鶴丸は、淡々と語る。
「無理な連戦。補給もなし。折れて……そのまま」
軽口は、ない。
「……鶯丸は」
私は、言葉を探す。
「……もう、戻らないんですか」
「戻らない」
即答だった。
「刀としては、ここにある」
奥を示す。
「でも、“刀剣男士”としては……終わりだ」
その名を知っている刀剣男士は、多い。
大包平。
一期一振。
そして――