第4章 『 主として 』
指先から離れたはずの温もりが、まだ掌に残っていた。
撫でる動作をやめた、その直後。
――ふわり。
部屋の空気が、わずかに揺れた。
風ではない。
音もない。
けれど、確かに。
「……?」
長谷部さんが、顔を上げる。
畳の上を、柔らかな光が滑るように走った気がした。
目に見えるほどではない。
だが、確実に――何かが満ちていく感覚。
「主……今のは」
私自身、何が起きたのかわからず、ただ手を見下ろす。
(……私、何かした?)
「……あー……」
そのとき、鶴丸が気だるそうに声を上げた。
「こりゃあ……」
目を閉じ、空気を吸い込む。
「懐かしい匂いだな」
冗談めかしているが、声音は真剣だ。
「主、やったな」
「え?」
「今の」
鶴丸は、にやりと笑った。
「霊力が、流れた」
同時に――
遠くから、ざわめきが伝わってくる。
「……今の、何だ?」
「おい、空気……変わらなかったか?」
「本丸全体……?」
建物の外。
庭の方。
回廊の向こう。
刀剣男士たちが、次々に異変に気づき始めている。
「……」
胸が、少しだけ熱くなる。
(……私の、力?)
「おい」
低く、現実的な声。
布団のもう一つ。
「……あ?」
鶴丸が、驚いたようにそちらを見る。
「豊前?」
布団の上で、豊前江がゆっくりと体を起こしていた。