第4章 『 主として 』
「……構いません」
そう言って、布団の隣に腰を下ろす。
「痛い目なんて慣れてます」
鶴丸が、ちらりとこちらを見る。
「それに」
ゆっくりと、手を差し出す。
「近づくなって言われると、余計に行きたくなる性分で」
「……はは」
鶴丸が、小さく笑った。
「困った主だな」
視線が、私の手に落ちる。
少し、迷う。
ほんの一瞬。
それから――
鶴丸は、そっと、その手に触れた。
「……まったく」
掠れた声。
「驚きだらけだよ、この本丸は」
その手は、まだ弱々しかったけれど。
確かに、そこにあった。
私は、ぎゅっと握り返した。
「……おかえりなさい」
鶴丸は、一拍置いてから。
「……ただいま、新しい主」
その声は、冗談抜きで――
少しだけ、安堵しているように聞こえた。
しばらくは誰も言葉を発さなかった。
私の手の中で、鶴丸の指先がわずかに動く。
それだけで、ちゃんと生きているとわかってしまって――胸が詰まった。
「……なあ、主」
鶴丸が、ふいに口を開く。
声音は、さっきまでと同じ軽さ。
けれど、目は笑っていなかった。
「さっき、ここに来るまで……奥、見ただろ?」
私は、息を吸った。
「……はい」
「折れてる刀」
さらりと、言う。
「結構あっただろ」
長谷部が、ぴくりと反応する。
「怖くならなかったか?」
鶴丸は、あくまで軽口の調子を崩さない。
「俺たちさ、刀だからな。使われて、折れて、終わり」
肩をすくめる。
「それを見て、『やっぱ無理』って主も多いんだぜ?」
視線が、まっすぐ私を射抜く。