第3章 『 よろしくお願いします。 』
大広間に足を踏み入れた瞬間、視線が集まる。
(……え、なんでみんな起きてるの)
昨日と同じ顔ぶれ。
けれど、空気はまるで違った。
殺気はない。
代わりにあるのは――探るような視線。
「……おはよう、ございます」
ぎこちなく挨拶すると、数拍遅れて、ぽつぽつと返事が返る。
用意された席へ案内され、座る。
朝食は、驚くほど普通だった。
白米、お吸物、焼き魚が二匹と漬物。
「……いただきます」
箸を取った、そのとき。
「――主」
静かな声が、広間に落ちる。
視線を向けると、昨夜とは別の刀剣男士が、こちらを見ていた。
落ち着いた佇まい。
だが、目だけが、鋭い。
「昨日の夜」
言葉を区切る。
「本丸全体に、霊力が走った」
……やっぱり。
箸を持つ手が、止まる。
「覚えは、ありますか」
一斉に、視線が集まる。
(え、なにそれ。知らないんですが…)
「…いえ」
正直に答える。
「特に、何かした覚えは……」
「ほう」
男は、わずかに口角を上げた。
「では、無意識か」
その言葉に、ざわりと空気が揺れる。
「引き継ぎも終わっていない主が、無自覚に霊力を放つ」
静かな声なのに、重い。
「それは、危険だとは思いませんか」
――試している。
はっきりと、そうわかった。
私は、箸を置いた。
「……危険かどうかは、わかりません」
一度、息を整える。
「でも」
顔を上げ、まっすぐに見る。
「私は、壊したくて力を出した覚えはありません」
沈黙。
「それに」
言葉を続ける。
「危ないからって、逃げるなら……最初から、ここには来てません」
誰かが、息を呑む。
「……ふ」
試すように問いかけた刀剣男士が、小さく笑った。