第3章 『 よろしくお願いします。 』
翌朝/本丸内。。。
「……なあ」
「お前も、感じたか」
朝の本丸は、妙にざわついていた。
廊下、庭、大広間。
あちこちで、刀剣男士たちが足を止め、ひそひそと声を潜めている。
「夜明け前だぞ。あんな霊気、久しく感じてなかった」
「前任様のとは……違う」
「新しい主、だよな」
「……まだ、引き継ぎも終わっていないはずだ」
不安と、期待と、警戒。
様々な感情が入り混じり、本丸の空気が落ち着かない。
その中で。
「――問題ない」
きっぱりとした声が、ざわめきを切った。
振り向けば、そこに立っていたのは、へし切長谷部。
「昨夜の霊力は、主のものだ」
言い切る声音。
「暴走ではない。本丸を害するものでもない」
「……随分と、肩を持つな」
誰かが皮肉めいた声を上げる。
長谷部は、わずかに視線を向けた。
「近侍として、事実を述べているまでだ」
一瞬、空気が張り詰める。
「主は、逃げなかった」
低く、しかしはっきり。
「恐れを抱えたまま、それでもこの本丸に留まった」
沈黙。
「……ならば」
誰かが、ぽつりと呟く。
「もう少し、様子を見るしかあるまいな」
長谷部は、それ以上何も言わなかった。
ただ、主の部屋の方角へ、静かに視線を向ける。
(……主)
昨夜、確かに感じた。
新しい主の霊力が、本丸に根を下ろした瞬間を。
「今日も、忙しくなりそうだな」
誰かの言葉に、空気がわずかに緩む。
本丸は、確かに動き始めていた。
新しい主を迎え、新しい時代へと。