第3章 『 よろしくお願いします。 』
案内された部屋は、思っていたよりも質素だった。
畳の匂い。
障子越しの月明かり。
最低限の調度品だけが揃えられた、静かな空間。
「……では、私はこれで」
へし切長谷部は一礼し、襖の外へ下がる。
「何かあれば、お呼びください。すぐに参ります」
その言葉を最後に、襖が閉じられた。
――本当に、一人だ。
私はゆっくりと息を吐き、部屋の中央に腰を下ろした。
「……つ、疲れた……」
声に出した瞬間、全身から力が抜ける。
張りつめていた糸が、ぷつりと切れた感覚。
そのとき。
胸の奥が、じわりと熱を持った。
「……?」
違和感に、思わず胸元を押さえる。
心臓の鼓動に合わせて、何かが脈打っている。
熱は次第に広がり、指先、足先へと伝わっていく。
畳が、淡く光った。
「……え」
障子が、風もないのに揺れる。
部屋の空気が、ざわ、と音を立てた気がした。
(なに、これ……)
怖い。
でも、不思議と嫌じゃない。
胸の奥から、何かが溢れ出そうとしている。
ずっと閉じ込められていたものが、呼吸を始めたような感覚。
「……これが……」
審神者の、霊力。
頭の中に、断片的な感覚が流れ込む。
刃の記憶。
戦の気配。
本丸全体と、細い糸で繋がるような感覚。
「……っ」
思わず、畳に手をつく。
制御の仕方なんて、知らない。
ただ、本能的に思った。
――壊したくない。
――守りたい。
その瞬間。
熱は、すっと落ち着いた。
畳の光も消え、障子は静止する。
まるで、何事もなかったかのように。
私は、しばらくその場から動けなかった。
「……今の……」
偶然じゃない。
確実に、“始まった”。
主として。
審神者として。