• テキストサイズ

【刀剣乱舞】満ち欠けに、鶴。

第3章 『 よろしくお願いします。 』


柱から手を離し、もう一歩踏み出そうとした、そのとき。

「……主」

背後から、低く抑えた声がした。
びくりと肩が跳ねる。
振り返ると、廊下の先に、あの高身長の近侍が立っていた。
足音は、まったく聞こえなかった。

「……いつから、そこに?」
「今しがたです」

そう答えながら、彼はゆっくりと距離を詰めてくる。

近づいても、威圧感はない。
むしろ、大広間にいたときよりも、ずっと静かだった。

「無断で後を追いました。失礼を」

そう言って、立ち止まる。

「……大丈夫、ですか」

その一言で、張り詰めていたものが、少しだけ緩んだ。

「……平気です」

即答してから、自分でも苦笑する。

「多分」

視線を落とすと、足先がまだわずかに震えているのがわかった。
近侍は、それを見逃さなかった。

「……無理をなさいました」

責めるでも、憐れむでもない声音。

「初日から、あの場に立たされれば、当然です」
「……そう、ですか」
「ええ」

短く、しかしはっきりと頷く。
少しの沈黙。

「……止めてくれて、ありがとうございました」

ようやく、そう言えた。

「礼を言われることではありません」

近侍は、目を伏せる。

「私は、主の近侍です。主を守るのが、務めですから」

その言葉が、胸に落ちる。

――近侍。
さっきまで、ただの役職だと思っていた言葉。
けれど今は、少しだけ重みが違った。
/ 108ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp