• テキストサイズ

【刀剣乱舞】満ち欠けに、鶴。

第3章 『 よろしくお願いします。 』


襖を閉めた瞬間、音がやけに大きく響いた。

その場に、私ひとり。
次の一歩を踏み出そうとして――足が、動かなかった。

「……っ」

膝が、震える。

力を入れているつもりなのに、言うことをきかない。
さっきまで立っていられたのが、嘘みたいだった。

私は慌てて、廊下の柱に手をついた。

(……今さら、か)

喉の奥が、ひりつく。
大広間では、あんなに啖呵を切ったくせに。

言いたいことも、言い返すことも、ちゃんとできた――はずなのに。
一人になった途端、全身から力が抜けていく。

「……怖かった」

声に出した瞬間、情けなさが込み上げる。

あの視線。
あの殺気。

刃を向けられていないのに、斬られたような感覚。

――私、よく立ってたな。
膝が、がくりと落ちそうになる。

必死に歯を食いしばって、なんとか踏みとどまる。

(ここで座り込んだら……負けだ)

誰に、というわけでもない。
それでも、そう思った。
深く、息を吸う。
吐く。

……少しだけ、震えが収まった。

そのとき。
指先が、じんわりと熱を帯びる。

「……?」

何かが、胸の奥から立ち上がってくる感覚。
怖さと一緒に、別のものが混じる。

――消したくない。
まだ名前も知らない。

けれど、大広間にいた刀剣男士たちの姿が、脳裏に浮かぶ。

「……消えないで」

小さく、呟いた。
その瞬間、空気が微かに揺れた。
自覚はない。
けれど、確かに。

私の中で、何かが“審神者”として動き始めていた。

私はもう一度、柱から手を離す。
震える足で、一歩。
ゆっくりと、前へ。
まだ、怖い。

それでも――
逃げるつもりは、なかった。
/ 90ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp