第10章 『 主と刀である前に 』
それから鶴丸は黙ったまま一言も発しなかった。
杯を指で弄んでいるのを見てか、一文字則宗が小さく咳払いをした。
「……さて、夜も更けてきた。そろそろお開きにしようか」
「だねだね」
加州清光もそれに乗っかるように立ち上がる。
「明日もあるしさ。主も疲れてるでしょ?」
それぞれが「また明日」「おやすみ」と声を掛け合い縁側の輪がほどけていく。
審神者も立ち上がり部屋へ戻ろうと一歩踏み出した――その瞬間。
ごつん。
無言で、大倶利伽羅が鶴丸の肩を軽く殴った。
「……え?」
鶴丸が振り向くと、大倶利伽羅は顎で審神者の背中を示すだけ。
「……送れ」
それだけ言って、もう興味がないという顔で背を向ける。
「お、おいおい」
鶴丸が戸惑っていると今度は三日月が楽しそうに笑った。
「ふむ。これは命令に近いな」
一期一振も、珍しく穏やかに微笑む。
「主を一人で歩かせるのは、どうかと」
「……まあ」
鶯丸はお茶を啜りながら、淡々と一言。
「男を見せる機会だな」
「……全方位から圧かけてくるのやめてくれない?」
鶴丸は小さく苦笑しながらも、立ち上がるしかなかった。
一方その頃、豊前江はというと。
「じゃ、俺は江の連中と二次会な!」
そう言い残し、残っていた酒瓶をひっつかんで、「まだ飲み足りねぇし!」と、さっさと縁側の向こうへ消えていった。
残されたのは鶴丸と審神者、そして“逃げ場を完全に潰された空気”。
「……行く、か?」
鶴丸が、少しだけぎこちなくそう聞く。
夜風は涼しく、月はまだ高い。
さっきまで賑やかだった縁側が、嘘みたいに静かになっていた。