第10章 『 主と刀である前に 』
「……ああ、主」
ふいに声をかけられて顔を上げると、縁側の端に座っていた一文字則宗が、こちらを見ていた。
「夕餉の折に話していた“目安箱”、あれは良い案だった。感謝している」
「いえ……用意や設置を全て長谷部さんに任せきりになってしまったので私は何も」
少し照れたように答えると則宗は満足そうに頷きながら、周囲を見渡す。
「こういう場で言うのも何だが……些細なことでも構わぬ。遠慮せず書いてほしいものだ」
その言葉に、審神者ははっとして、縁側にいる面々にも視線を向ける。
「そう、です。部屋割りでも、刀装でも、内番でも……
困ってること、なんでも書いてくださいね」
「主が言うと、なんか安心感がありますな」
一期が柔らかく微笑み、
加州は「じゃあ俺、ネイル道具の予算増やしてって書こ」と軽口を叩く。
そんな中。
「じゃあさ」
突然、豊前江が顎に手を当てて、やけに真剣な顔で口を開いた。
「俺、“主の隣に座れる優先権”って書いていい?」
一瞬、時間が止まった。
「……は?」
「は?」
「……今、何と?」
三日月と一期が同時に声を漏らし鶯丸はお茶を吹きそうになり、大倶利伽羅は何故か大きなため息を零す。
「え、冗談だよ冗談。ほら、主が困る顔するかなって」
「しないでくださいそんな冗談……!」
慌てて否定する審神者の横でなぜか一番反応が遅れたのが、鶴丸だった。
「……豊前江、それはさすがに」
笑っているようで、どこか声が低い。
豊前はその微妙な空気に気づいたのかにやっとして肩をすくめる。
「いやー、なんかさ。主の隣、やけに競争率高そうだなって思ってさ?」
その言葉に縁側の空気が一瞬だけ、別の意味で静まった。
誰も何も言わないのに視線だけが、無意識に――審神者と鶴丸の間をそっと往復する。