第10章 『 主と刀である前に 』
夕食の時間。
大広間には、いつものように賑やかな空気が戻っていた。
遠征帰りの部隊の話し声、内番で泥だらけになったまま笑っている者、薬研の作った薬膳をつつきながら文句を言う者。
私はいつも通り長谷部さんの隣に座って、今日のメニューをぼんやり眺めていた。
その時。
「食事前にすまないが、報告しておきたい案件がある」
長谷部さんが立ち上がり、声を張った。
一瞬で、場の視線が集まる。
さすが近侍、という統率力だった。
「本日より、大広間の端に“目安箱”を設置した」
「目安箱?」
「なんだそれ?」
ざわっと声が上がる。
私は思わず長谷部さんの方を見た。
(え、もう作ったの!?)
つい数時間前に話したばかりなのに、もう設置まで終わっているらしい。
長谷部さんは淡々と続ける。
「刀装の更新要望、部屋割りの希望、その他、生活や運営に関する意見を自由に書いて投函してほしい」
「直接言わなくていいのか?」
「匿名でも構わない」
その一言で何人かの刀剣男士が明らかに安心した顔をした。
ここで私は、慌てて補足する。
「えっと……長谷部さんが言った通りなんだけど」