第10章 『 主と刀である前に 』
「……大丈夫だよ」
ほとんど反射みたいに、その言葉が口から出ていた。
大丈夫。
何度も使ってきた、便利な言葉。
本当は、胸の奥がずっとざわざわしていて。
夢の中の声も、前任の記憶も、まだ頭から離れていないのに。
「ちょっと夢見ただけ。すぐ朝ごはん行けるし」
自分に言い聞かせるみたいに、笑おうとした。
でも、頬の筋肉がうまく動かない。
長谷部は、しばらく何も言わなかった。
ただ、ほんの一瞬だけ、唇を噛みしめる。
「……承知しました」
そう言ったけれど、その声は、どこか納得していない。
(バレてるよね)
内心でそう思いながら、私は視線を逸らした。
「じゃあ……行こっか」
空気を変えたくて、私は布団から降りた。
畳に足をつけて、立ち上がろうとした、その瞬間。
視界が、ぐにゃりと歪んだ。
床が遠くなる。
頭の奥が、じんわり熱くなる。
「……あ」
声を出すより先に、体が前に傾いた。
足に力が入らない。
自分の体なのに、重さの感覚がおかしい。
(あ、これ……)
転ぶ、と思った。
「主!!」