第10章 『 主と刀である前に 』
目を覚ましてから、どれくらい時間が経ったのか分からなかった。
ただ、布団の上で膝を抱えたまま、呼吸だけがやけに浅くて、うまく現実に戻れていない感覚があった。
「……主」
静かな声が、すぐそばから聞こえる。
視線を向けると、そこにいたのはへし切長谷部だった。
いつものように背筋を伸ばし、正座したままこちらを見ている。
「本日は、出陣や演練などの予定は入れておりません。政府への定期報告も、急ぎのものは私の方で処理しております」
淡々とした口調。
でも、どこかいつもより慎重な言い方。
「……無理をなさる必要はありません。主は、ここ数日……ほとんど眠れておられませんでしたから」
その一言で、胸の奥に沈めていたものが、少しだけ浮き上がった。
眠れていない、という自覚はあった。
でも、それを他人の口から言われると、急に現実味を帯びる。
「……そうなんだ」
自分の声が、思ったよりも弱く聞こえた。
長谷部は、すぐには視線を逸らさず、私の顔をじっと見つめたまま、静かに続ける。
「主は、十分すぎるほど、働かれています。……これ以上、御自身を追い詰める必要はありません」
“追い詰める”。
その言葉が、やけに重く耳に残った。