第9章 『 小さな葛藤 』
陸奥守の体。
前任の怨念。
闇の中で見た、あの記憶。
楽しそうに笑っていた少女。
刀たちと過ごしていた日常。
そして――すべてを失っていく過程。
「……」
喉が、ひくりと鳴る。
(あれは……)
(あの人は……)
自分と何が違ったのだろう。
同じ審神者。
同じ本丸。
同じ刀たち。
ただ一歩踏み外しただけで――
「……こわ…い……」
声にならない声が漏れた。
肩が、わずかに震え始める。
理性では分かっている。
もう終わった。
もう大丈夫だ。
でも心は闇の中に残されたままだった。
「……私も、ああなってたかもしれない……」
その言葉を、聞く者は誰もいない。
静まり返った大広間で主は一人きりで――
前任の“残像”に、震えていた。