第9章 『 小さな葛藤 』
指先が宙で止まり、ぎゅっと握りしめられる。
(……違うだろ、俺)
(今、触れるのは……)
主は、こちらを見ていない。
前任の消えた場所を、静かに見つめていた。
「……終わったんだよね」
自分に言い聞かせるような声。
「もう、いない……」
三日月宗近は、その様子をじっと観察していた。
主の霊力は安定している。
怨念も断たれた。
理屈の上では何も問題はない。
――だが。
「……念のため、だ」
三日月は、静かに呟く。
そして、同じ三条の名を呼んだ。
「石切丸」
少し遅れて柔らかな気配と共に現れる。
「うん。話は聞いていたよ」
石切丸は主を見て優しく微笑む。
「お祓いを、しましょうか。念残りは目に見えぬところに、染みつくものですから」
主は、少し驚きつつも頷いた。
「……お願いします」
その様子を見ながら、鶴丸は、まだ握りしめたままの手をそっと開いた。
抱きしめなかった。
できなかった。
けれど。
胸の奥に残る震えだけはどうしても、消せなかった。
(……危なかった)
(ほんとに、失うところだった)
それが、戦いの余韻なのか。
それとも――
もう自分でも区別がつかなくなっていた。