第9章 『 小さな葛藤 』
その最期。
影は消えゆく中で、小さく、震える声で呟いた。
「……愛して」
それは、命令でも、呪いでもなかった。
ただ誰かに求めた言葉。
影が完全に消えた瞬間。
本丸を覆っていた重さがすっと、抜け落ちた。
「……終わったな」
三日月が、刀を収める。
鶴丸は、唇を噛みしめたまま消えた場所を見つめていた。
審神者はその場に立ったまま胸の奥に残る、かすかな痛みを感じていた。
(……愛して、か)
その言葉の重さを、忘れることはない。
でも。
今度は違う。
この本丸には、もう“孤独”を一人で抱え込む者はいない。
三日月が、主へ視線を向け、静かに告げる。
「主よ。お主は闇を見て、なお、戻ってきた」
「それだけで、十分だ」
鶴丸は何も言わず、ただ――
主の無事を、確かに目に焼き付けていた。
封じたはずの想いがまた、静かに疼いていることを、自覚しながら。
――戦いは終わった。
だが、心の物語はまだ、続いている。