第9章 『 小さな葛藤 』
闇が、静まり返った。
審神者を取り戻したことで怨念の流れが、確かに揺らいでいる。
影の女――
前任の審神者は、悔しそうに二振を睨みつけていた。
鶴丸国永。
三日月宗近。
「……どうして!」
歪んだ声が空間に滲む。
「どうして、あなたたちは……」
鶴丸が無言で前に出ようとした、その瞬間。
三日月が静かに一歩、踏み出した。
「――そこまでだ」
声は低く揺るぎがない。
「汝は、審神者ではない」
前任の怨念が、きっと歯を食いしばる。
「違う……!」
叫びが、空間を震わせる。
「私は、この本丸を……あの子たちを……!」
「愛していた、と言うのだろう」
三日月は淡々と告げた。
その言葉に前任の怨念が、一瞬、言葉を失う。
「……だがな」
三日月が刃を構えた。
「愛とは、縛ることではない」
「守るためと称して折り、壊し、己の恐怖を押し付けることでもない」
霊力が刀身に集まる。
澄んだ夜明け前の光。
「汝はもう、戻れぬ」
前任の影が、後ずさる。
「……待って」
その声は、もう怨念ではなかった。
ただの、弱い声。
「お願い……」
三日月は一切、迷わない。
「終わりだ」
音もなく闇が裂けた。
怨念は、断たれ、崩れ落ちていく。