第11章 愛される呪い
その一言が彼女の中に眠る、抑えきれぬ何かを引き出した。
身体は拘束され逃げることもできず、ただ彼の意思に従うだけの存在となったが心の奥では反発と知らず知らずのうちに芽生えた熱い渇望が絡み合い苦しみを甘美な官能に変えていく。
呪霊の指が唇に触れ冷たくも滑らかな感触が彼女の頬を伝い、耳元で囁かれる言葉がまるで魔法のように彼女の理性を揺らす。
呪「君はもう、私なしではいられない。」
彼女の瞳は揺れ心の中で抗い続ける理性と、呪霊の存在に抗えない欲望の狭間で彷徨った。
拒みたいのに拒めない、逃げたいのに逃げられない。
この不可思議な感覚が、彼女の全てを支配していった。
闇の中で溶け合う2つの魂。
支配と服従、恐怖と欲望が絡み合い果てしなく続く夜の中で彼女は初めて自分の内に秘めた熱を知ったのだった。
(──これは呪霊の仕業。わかっているのに、どうして私の身体は……こんなにも熱を帯びていくの?)
暗がりに沈む廃ビルの1室。
目の前にいるのは、完全な人型の呪霊。
艶やかな黒髪に理知的な瞳、彫刻のように整った顔立ち——
しかしその瞳には人間のような“理性”は宿っていない。
代わりに、狂気と欲望が、静かに揺らめいている。
呪「君の“拒絶”はとても甘美だ。だが、術式が発動している間は、君の意思はもう通らない。体だけが、正直に反応してくれるんだろう?」
細い指が、女の顎を持ち上げた。
冷たい唇が耳元に触れる。
その瞬間、女の背筋にぞくりと電流が走った。