第11章 愛される呪い
呪「…キミは、良い匂いがするね。」
耳の奥に響く、声。
「っ、やめて……!」
呪「嫌がっているのに……鼓動が早い。肌の温度も上がっている。」
「黙って……っ。」
呪「君の心の奥。誰にも見せていない場所を……私なら、暴ける。」
「っ……やめてって言ってるのに……!」
それは恐怖か、それとも……
別の感情か。
自分でもわからない。
彼女の着ていた上衣の裾が、するりとめくられる。
呪「……ねえ、私に全部任せてみない? 快楽も、恐怖も、忘れられるくらいにしてあげる。」
その言葉に、みみはぎゅっと唇を噛んだ。
「私の体に、勝手に……触れないで。」
呪「でも君は……触れられることに身体が、拒んでいない。」
呪「ねえ。キミの1番奥、見せて。」
その瞬間、体がびくりと跳ねた。
(ダメ……こんなの……。)
拒絶しなきゃいけないのに、反応してしまう体。
呼吸が浅くなり、指先に力が入らない。
呪「君が本当に望むもの……誰にも言えないそれを、教えて。」
「だ、誰も……!」
呪「今ここにいるのは、私だけだ。キミの弱さも欲も、全部受け入れてあげる。」
呪霊はまるで恋人のように優しく絶対者のように傲慢に、みみの全身を絡め取っていく。
すべてを、ゆっくりと、塗り替えるように――。
闇の底から這い上がるように、冷たい気配が彼女の全身を包み込んだ。
呪霊の能力に捕らわれ孤独と絶望に引き裂かれながらも、その異形の存在が紡ぐ蠱惑的な熱に心の奥底がじわりと溶かされていく。
“逃げられない、抗えない”。
呪霊の声が、甘く囁くように彼女の意識に浸透していった。
まるで黒い絹糸が彼女の体の隅々まで絡みつき、動きを奪ってしまうかのように。
その呪縛に身を任せるしかないと、理性が薄れていくのを感じていた。
薄暗い空間の中で彼女の肌に触れる冷たい指先は、まるで漆黒の花弁のように柔らかく、しかしどこか鋭く爪先で這い回る。
震えが体を襲いながらも、その冷たさは徐々に熱を帯びていき、まるで深い眠りから覚めるように彼女の感覚を研ぎ澄ませていった。
呪「君の中にある恐怖と欲望、それが私を強くする。」
呪霊は静かにそう呟いた。
彼の声はまるで暗い水面の下から響く低音のように重く、そして甘美だった。