第11章 愛される呪い
精神を揺さぶるような囁きに、みみの背筋が戦慄した。
気づけば、呪霊は目の前にいた。
距離を詰められたことにすら気づけなかったのは彼の能力か、それとも──
彼女の集中が散っていたせいか。
「近寄らないでって、言ってるのに……っ……!」
呪「言葉と本心が一致していないと……隙が多いね。」
その指が、彼女の顎先を優しく持ち上げた。
触れられた瞬間、力が抜ける。
何か体を包み込むような異様な快感が、皮膚の下から湧いてくる。
呪「君の恐怖、混乱、理性の抵抗……全部、美味しい。でも、1番欲しいのは──自分から堕ちてくるその瞬間だよ。」
「だれが……っ……そんな……ッ。」
息が詰まる。
呪霊の視線が、まるで体の内側を透かして見ているようで、羞恥心が込み上げる。
理性では拒否しようとしているのに、脳の奥が痺れるような陶酔感にとらわれていた。
──これが、奴の能力。
触れた相手の五感を微細に操り、快楽と恐怖の境界を曖昧にする異能。
呪「このまま君が“術師”として戦おうとするなら、もっと強く刺激してあげるけど──どうする?」
唇が耳に近づき、息が掛かる。
その声は媚びているのではなく、支配の匂いを纏っていた。
みみは自分の腕を強くつねった。
痛みで一瞬だけ意識が浮上する。
しかし、すぐにまた揺らぐ。
呪「この身体、嘘をつけないよ。君の心がどんなに拒絶しても……反応してしまえば、もう──。」
呪霊の指が、彼女の首筋に触れる。
わずかな指先の接触に、ビクリと身体が跳ねた。