第11章 愛される呪い
今日の任務先は、都内の廃ビルで頻発している呪霊の調査と祓除。
ランクは準1級、複数体の出現が見込まれており4人での出動となった。
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廃ビルの入口には、封印紙が剥がれかけたまま風に揺れていた。
野「嫌な気配……。」
釘崎が鋭く目を細める。
伏黒は十種影法術の式神を呼び出し、周囲を探る。
恵「3体。中階層に1体、上階に2体。……けど、気配が微妙に乱れてる。ひとつは“式”を使ってる可能性がある。」
悠「時間かけると、悪化しそうだな。」
悠仁が軽く肩を回す。
悠「みみ、大丈夫そう?」
ふと、彼がみみの方を振り返る。
その目に戦闘前特有の静かな集中と、微かな心配の色が宿っていた。
「うん。……行ける。」
強く頷くと、悠仁はにっと笑って拳を突き出してきた。
悠「じゃ、久々の任務、楽しもうぜ。」
拳を合わせると、どこか気持ちが引き締まる。
戦いの場に戻ってきたのだと――
そう、実感する。
4人は一斉に廃ビル内部へと走り出した。
乾いたコンクリートの匂い。
天井のひび割れ。
壁に残る呪胎の痕跡。
それでも、この空間の中に仲間の背中があるだけで、みみは少しだけ“戻れた気がした”。
けれど。
胸の奥に棲みついた熱――
悟と傑の影だけは、静かに残り続けていた。
みみは仲間とはぐれたことを確信した瞬間から、呪霊の気配に追われていた。
──正確には、“気配”と言うにはあまりにねっとりと、彼女の内面に染み込むような存在だった。
「どうして、私の……内側まで入ってこようとするの……?」
呪霊は、姿を見せたときには既に人の男の形をとっていた。
漆黒の髪を持ち目元は艶やかに潤み声は低く、耳の奥を撫でるような甘さを帯びていた。
人間の男よりも遥かに“色気”の成分を濃縮したような存在。
呪「君の心の奥が……ずっと私を呼んでいる。気づいてないのかい?」
「……っ、ちが……っ……来ないで……!」
みみは退こうとしたが、足がもつれた。
呪「可愛い声だ。怖がってるのか、それとも……もう気づき始めてるのか。君の身体が反応していることに。」
その声は耳ではなく、頭の中に直接響いた。