第1章 転生と閉じ込め
開かれた扉の先には、これまでのような無機質な部屋ではなく、どこか薄暗く異様な空間が広がっていた。
床には黒と赤の斑模様のカーペット、壁には意味のわからない記号の数々。
中央には1人の男が、背を丸めたまま立っていた。
博「おお、おおおお……来た、来たぞ……!」
眼鏡の奥の目はぎらつき、肌は青白く乾いた紙のよう。
白衣は皺だらけで、いかにも“狂気”を絵に描いたようなその男は、みみの姿を見た瞬間、異様な興奮をあらわにした。
博「すばらしい……完璧だ、理想的な肉体……艶、構造、発汗のバランス……!」
「……誰?」
みみは反射的に甚爾の背後に身を寄せた。
嫌悪と警戒が同時に喉を詰まらせた。
男の目線は、あからさまに彼女の身体を舐めまわしていた。
甚「オマエ、何者だ?」
甚爾が低く唸る。
手にはすでに、見覚えのある呪具が現れていた。
だが男は怯まない。
それどころか、嬉々として手を叩いた。
博「私はね、“博士”と呼ばれている存在だよ。この部屋群の、調整者。君たちの反応、肉体、精神の変容を観察している……ああ、それにしても君……。」
博士はゆっくりとみみに手を伸ばした。
博「その“反応”が非常に美しい。さっきの記録も見たよ。実に興味深い……私のラボに来ないかい?その肉体、くまなく分析して——。」
バシュッ。
音がしたのは一瞬だった。
博士の左手が、肘から先ごと吹き飛んでいた。
血飛沫が視界を染めるより早く、甚爾がすでに“斬って”いた。
博「ひィッ……!? お前、何を——。」
甚「てめぇ……。」
甚爾の声が、低く、深く、氷のように冷えていた。
甚「みみに触れようとしたな。」
背筋が凍った。
甚爾の瞳には、怒りでも殺意でもない。