第10章 優しさ
ゆるく笑ったその声の奥に、微かな揺らぎがあった。
みみは気づかないふりをして、もう1度彼の胸に顔を擦り寄せる。
傑「……やっと、君のこんな顔を見られた気がする。ずっと……あの男の影ばかりだったから。」
囁くように、唇が耳に近づいた。
傑「ずっと……触れたいと思ってた。けど……“悟の女”っていう顔でいる君に、私は、手を出しちゃいけないと思ってた。」
その言葉に、はっと顔を上げると、すぐ目の前に傑の瞳があった。
黒曜石のように深く澄んだその目が何かを決壊させたように、熱を滲ませている。
傑「けど……今の君、私だけを見てる。」
唇が触れた。
柔らかく、静かに――
でも、逃さないと告げるように。
傑「……ごめん、止まらない。」
みみの頬に手を添えたまま、傑は唇を重ねてきた。
最初は優しく、触れるだけの口づけだった。
けれど、みみがそのまま目を閉じると――
彼は奥へと、深く舌を差し入れてくる。
「ん、ふ……っ、傑……?」
唇の隙間から甘い吐息が漏れた瞬間、彼の手が背中を撫で腰へと回される。
その手付きが、もう“教師”のものではなかった。
傑「……ずっと、こうしたかったんだ。……オマエが、無防備に甘えてくるたび、理性が削られてく。」
みみは膝の上に乗ったまま、傑の両腕に閉じ込められていた。
どこにも逃げられない位置で、彼はじっと目を見つめてくる。
傑「……君はこんなに甘くて、温かい。……たまらないよ、ほんとに。」
耳元に落とされる囁きが熱を帯びていて、背筋が小さく震える。
傑「優しくするつもりだった。でも、今の君の顔は……私を誘惑してる。」
「……して、ない。そんなつもりじゃ――。」