第10章 優しさ
触れられていないのに、まるで抱きしめられているような感覚に包まれた。
彼の声、視線、温度。
それだけで、今にも涙が零れそうだった。
傑「泣いても良いよ。……私の前では。」
そっと差し出された腕に、自分でも気づかないうちに身体を預けていた。
そしてみみは数日ぶりに、声を上げて泣いた。
五条悟に壊されかけた心のまま。
誰にも見せられなかった弱さを、傑だけにさらしながら。
傑の腕の中は、ひどく落ち着いた。
硬くなっていた心が、彼の掌の温もりでほぐされていく。
優しい声、静かな吐息なにより何も強制しない距離感が今のみみにはあまりにも心地よかった。
「……ありがとう、傑……。」
顔を彼の胸元に押し当てたまま小さく呟くと、傑はその頭をそっと撫でてくれた。
ゆっくりと、指先で髪を梳くように。
傑「……君が、今ここにいてくれてよかったよ。」
低く落ちる声が、鼓膜に心地よく響く。
五条悟のような圧ではなく、静かに染み込むような――
それでいて、どこか火を孕んだ声。
そのまま、みみは傑の膝の上に乗るような形で身体を預けてしまっていた。
少し無防備かもしれないとは思ったけれど、それでも今は、この人のそばがいちばん安らげた。
それが、たとえ――
誤解を招く形だったとしても。
「……こうしてると、落ち着く……安心するの。傑の匂い、好き……。」
ぽつりと、無意識にこぼれた言葉。
腕の中の空気が、わずかに変わった気がした。
傑「……そう。」