第10章 優しさ
熱を吐き出したあとも、悟は抜かずにそのままみみを抱きしめた。
穏やかに笑うその顔は、まるで最初から何も起きていなかったように綺麗で――
けれど、その裏に潜む独占欲の化け物を、みみは知ってしまった。
この男から逃れることは、もうできない。
みみの身体も心も、もう悟の中に沈み込んでいた。
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数日間、みみは自室から出られずにいた。
食事は夜遅く、人の気配がない時間を見計らって取りに行った。
浴場も早朝の誰もいない時間に駆け込んで、すぐに戻った。
顔を合わせるのが怖かった。
あの夜――
悟に何度も何度も抱かれ泣き声を上げながらも最後まで彼を拒めなかった自分を思い出すたび、羞恥と自己嫌悪で心が掻きむしられる。
……なにより、あの時の悟の目が焼き付いて離れなかった。
狂気の奥に愛を孕んだような、執着の色。
あの目で見つめられるのが、怖くて。
なのにどこか、甘くて。
ベッドに身体を沈めたまま、薄暗い天井を見つめていたそのとき――
コン、コン。
部屋の扉が小さく2度、叩かれた。
――悟?
まさか。
心臓が跳ねた。
身体が一気にこわばる。
何も応えず、息を殺す。
だけど。
傑「……私だよ。傑。」
優しく落とされた声に、張り詰めていた緊張がふっと緩む。
扉の向こうから漂う気配は、あまりにも柔らかくて、どこか切なさすら滲んでいた。
そっと立ち上がり、戸口に近づいて鍵を外す。
重い扉を開くと、そこに立っていたのは黒い制服を羽織ったままの夏油傑だった。
傑「……やっと開けてくれたね。」
ふわりと目元を緩める彼の笑顔に、胸が締め付けられる。