第9章 誰にも触れさせない
――帰りたくない、とは言えなかった。
悟「さすがに朝まで戻らないってのは、予想外だったよ。」
「……悟……っ。」
咄嗟に足が止まる。
「一晩中探してた。まさか……アイツのとこにいるとは思ってなかったけど。」
悟の手には、スマートフォン。
画面には未送信のメッセージ履歴。
“心配してる。どこ?”“何かあった?”“……迎えに行くから、教えて。”
それらが虚しく並んでいた。
その一言に、みみは息を詰めた。
彼の目には、怒りも、悲しみも、そして――
諦めが混ざっていた。
みみが足を踏み出すと、悟は何も言わず隣に並ぶ。
けれどその歩調は、いつもより少しだけ速い。
悟「……連絡くらいしてよ。心配するから。」
彼の声は、震えていた。
「……ごめん。」
みみの目から、ポロリと涙が落ちた。
悟はその涙に何も言わず、ただ手を差し出した。
彼の手を取った瞬間、みみの中で何かが軋んだ。
でもその痛みが、今は心地よかった。
そして背中越しに振り返ると、甚爾の姿はもう――
消えていた。
────────
重く沈む空気の中、呪術高専の自室に引きずり込まれたみみはドアが閉まる音に身体を強張らせた。
悟「――僕の目の前で他の男に触られて帰ってくるなんて、良い度胸してるよね。」
低く抑えた悟の声。
普段の軽やかなトーンは消え失せ、そこにあるのは怒りと明らかな支配欲。
そして、みみの肌の奥を焼くような嫉妬の熱だった。
肩を掴まれ、壁に押し付けられる。
背中がぶつかった衝撃よりも、悟の瞳の奥に渦巻く激情に息を呑んだ。
悟「……あの男の匂い、まだ残ってる。……気持ち悪い、吐きそう。」
耳元に落とされた呟き。
次の瞬間、顎を持ち上げられ強引に唇を塞がれる。
吸い付くような激しい口づけに言葉を紡ぐ余裕などなく、ただ翻弄されるしかなかった。
悟「……僕以外に触れられたオマエの身体、全部塗り直してやる。」